十妙

十妙

【じゅうみょう】


妙法蓮華経の妙の一字に十種の義があること。天台大師の法華玄義巻二上から巻七下の釈名段に説かれている。迹門十妙と本門十妙の二意があり、合して本迹十妙、本迹二十妙ともいう。迹門十妙は、諸法実相・開三顕一の妙理について十重に開いて妙を論じたもの。境妙、智妙、行妙、位妙、三法妙、感応妙、神通妙、説法妙、眷属妙、功徳利益妙の十妙をいう。本門十妙は、迹門十妙の法理を前提にして、如来寿量品第十六の開迹顕本による久遠の妙義を十重に開いたもの。本因妙、本果妙、本国土妙、本感応妙、本神通妙、本説法妙、本眷属妙、本涅槃妙、本寿命妙、本利益妙の十妙をいう。また、迹本の教えによって観を起こすに衆生法妙、仏法妙、心法妙があり、この三法妙のおのおのに本迹の十妙を具し、更に一つ一つに相待・絶待の二妙が具足しているゆえに、妙の一字に百二十重の義を有すとしている。


1.迹門の十妙

方便品第二に説かれた諸法実相の意によって十個の妙(不可思議)を顕したもの。法華玄義の略説にしたがえば、境とは諸法実相、智とは諸法実相に冥合する妙智をいう。行とは妙智に導かれて起こす修行をいい、位とは行によって証する位をいう。三法とは妙位によって立つ法をいい、感応とは衆生の感と仏の応とをいう。神通は仏の功力をいい、説法は仏の説法を、眷属は聴法をもって帰依することを、利益は他を益することをことをいう。1.境妙。智慧が観照する対境が妙であること。2.智妙。妙なる境を理解してゆく智慧が妙であること。3.行妙。妙なる智によって行う修行が妙であること。4.位妙。修行によって至る悟りへの階梯(かいてい)が妙であること。5.三法妙。法の本体としての真理(真性軌〈しんしょうき〉)、本体(真理)を照らす智慧(観照軌)、真理と智慧の冥合したところに起こる行、所作、修行(資成軌〈しじょうき〉)の三つが妙であること。6.感応妙。衆生が仏を感じ、仏が衆生の感に応じて法を説き、両者が相かなうこと(感応道交)が妙であること。7.神通妙。仏の神通力(仏の身体の不思議な作用)が妙であること。9.眷属妙。一切衆生が仏の眷属であることが妙であること。10.功徳利益妙。衆生が三千塵点劫の昔に下種益を受けて以来、仏の化導、利益を受けて迷いを破し真理を顕すことが妙であること。


2.本門の十妙

天台大師の法華玄義巻七に説かれる。五重玄の釈名において妙の一字を解釈するにあたり、本門の十妙を説いている。法華玄義によれば、迹門の十妙は「一には近のゆえに、二には浅深不同なるゆえに、三には払わるるがゆえに」いまだ真実を顕さず、劣るとして捨てられている。迹門の十妙は本門の十妙を説くための準備にあたる。本門の十妙の本因妙は久遠本地の因の修行をいい、本果妙は久遠の成道妙覚をいい、本国土妙は久遠本地成道の国土をいう。本感応妙は久遠本地第一番の教化の弟子と仏とをいい、本神通妙は久遠本地の仏の神通力をいい、本説法妙は久遠本地本仏の説法を、本眷属妙は久遠本地第一番の弟子を、本涅槃妙は久遠本仏の寂定の境地を、本寿命妙は久遠本仏の所証の寿命を、本利益妙は久遠本仏の利益をいう。1.本因妙。本仏の因位の万行が妙であること。2.本果妙。本仏の果位の万徳が妙であること。3.本国土妙。本仏の所住する国土が妙であること。4.本感応妙。本仏と衆生との感応が妙であること。5.本神通妙。本仏が説法の際に示す神通力が妙であること。6.本説法妙。本仏が久遠に説法したことが妙であること。7.本眷属妙。本仏と久遠に結縁した衆生が妙であること。8.本涅槃妙。本仏の涅槃は本有常住であり常寂であるから、垂迹仏が衆生教化のために示す涅槃とは異なり、妙であること。9.本寿命妙。本仏が非長、非短の寿命をもって長短の寿命を自由に示現することが妙であること。10.本利益妙。本仏の衆生に与える常寂光土における本時の利益が妙であること。


以上、迹門は釈尊一代の自行因果、化他の能所等、法界の一切法を分類し、これらのすべてが実相の一理に帰することを明らかにしている。自行と化他に分別すれば1~4は自行の因、5は自行の果、6~8は化他の能化、9、10は化他の所化に相当する。また本門は、迹門が現実世界の妙であることを説いたのに対して、久遠の本仏の世界が不可思議にして妙なることを明かしている。同じく自他に分別すれば、1は自行の因、2、3、8、9は自行の果、4~6は化他の能化、7、10は化他の所化に相当する。しかもこの二妙を絶待妙(諸法即実相を説く法華経の理)の立場からみると、現実世界と久遠本仏の世界は異なるものではなく、現実はそのまま久遠であり(娑婆即寂光)、本門と迹門は不思議の一体をなしている。なお、百六箇抄では「下種十妙」を立てられて、本因妙をもって寿量文底下種仏法の根本としている。